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大阪地方裁判所 昭和46年(ワ)3183号 判決

原告 神谷英則 ほか一名

被告 日本電信電話公社

訴訟代理人 麻田正勝 国見清太 ほか四名

主文

一  被告は、原告神谷英則に対し、金六、三五四円及び内金三、一七七円に対する昭和四五年三月一一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を、原告水原良雄に対し、金一、七二六円及び内金一、四九三円に対する昭和四五年三月一一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を、各支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は、主文第一項に限り仮りに執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告は、原告神谷に対し六、三五四円、同水原に対し一、七二六円、及び右各金員に対する昭和四五年三月一一日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言。

二  被告

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決並びに担保を条件とする仮執行免脱の宣言。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  被告は、公衆電気通信業務及びこれに付帯する業務等を行なうため、日本電信電話公社法に基づき設立された公法上の法人である。

原告らは、いずれも被告の職員であり、昭和四三、四四年当時、原告神谷は、被告の近畿電気通信局西地区管理部に属する此花電報電話局(以下此花局ともいう)電報課の受付通信係に、同水原は、同課の配達係に、それぞれ勤務していたものである。

2  原告らは、それぞれ被告に対し、別紙目録(一)の(イ)、(ロ)、(ハ)欄記載のとおり有給休暇を請求し、休暇をとつたところ、被告は、右請求をいずれも認めず、同目録(ニ)欄記載のとおり原告らが、就労しなかつた時間を欠勤したものとして扱い、欠勤分として原告らが本来受給すべき賃金から同目録(ホ)欄記載の金員を差引いた。

3  しかしながら、原告らの右請求のうち、年次休暇(以下年休という。)の請求は、いずれも原告らが当該年度において労働基準法(以下法という。)三九条一、二項に基づき有していた休暇日数の範囲内でなされたものであつて当然有給休暇として認められるべきものであり、原告水原が請求した病気休暇(以下病休という。)も、被告の職員就業規則(以下就業規則という)三五条により有給休暇として認められているものであつて(別紙目録(二)参照)、被告がこれらの請求を認めず、欠勤扱いとしたことは、後述のとおり違法、無効であるから、被告は、賃金から差引いた前記各金員を、未払賃金として原告らに支払うべき義務がある。

4  よつて、被告に対し、原告神谷は、別紙目録(一)の(ホ)欄記載の三、一七七円と法一一四条所定の付加金としてこれと同額の三、一七七円の合計六、三五四円及びこれに対する本件訴状送達の翌日である昭和四五年三月一一日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求め、同水原は、同欄記載の二三三円と一、二六〇円の小計一、四九三円に、右二三三円に対する前同様の付加金としてこれと同額の二三三円を加えた合計一、七二六円及びこれに対する前同様の遅延損害金の支払いを求める。

二、三、四 〈省略〉

第三証拠関係〈省略〉

理由

一  請求原因1、2の各事実及び同3の事実のうち、原告らの本件各年休請求が、いずれも原告らが当該年度において有する所定の年次有給休暇日数の範囲内でなされたものであり、病休が就業規則三五条により有給休暇として認められていることは、当事者間に争いがない。

二  そこで、まず原告らの本件各年休の成否について判断する。

1  一般に、労働者の年休の権利は、法三九条一、二項の要件が充足されることによつて法律上当然労働者に生ずる権利であつて、労働者の請求をまつて始めて生ずるものではなく、労働者が、その有する休暇日数の範囲内で、具体的な休暇の始期と終期を特定して時季を指定(同条三項の「請求」とは休暇の時季の指定と解すべきである)したときは、客観的に同条三項但書所定の事由が存在し、かつこれを理由として使用者が時季変更権を行使しない限り、右の指定によつて年休が成立し、当該労働日における就労義務が消滅するものと解するのが相当である(最高裁第二小法廷昭和四八年三月二日判決、民集二七巻二号一九一頁参照)。

ところで、原告らが別紙目録(一)の1ないし3記載の日に、その有する休暇日数の範囲内で、同目録(ハ)欄記載のとおり年休を請求(時季の指定)したことは、前記のとおりであるから、これによつて被告の適法な時季変更権の行使がない限り、その指定どおり年休が成立するものというべきである。

2  被告は、年休は、労働者の請求に対する使用者の承認を要し、本件ではこの承認がなされていない旨主張するが、年休の権利の法的性質は前説示のとおりであつて、年休の成立要件として「労働者の請求」や、これに対する使用者の「承認」の観念を容れる余地はない。

なお、被告は、法三九条一ないし三項、一一九条の規定の趣旨からして、使用者に年休を付与承認すべき積極的な義務を課したものと解すべきであり、また就業規則等にも年休を取得するには所属長の承認を受けなければならない旨規定されていることからしても、年休の成立要件として使用者の承認が必要である旨主張するが、法三九条一ないし三項で年休を「与えなければならない」としているが、その実際は、労働者自身が休暇をとること、すなわち就労しないことによつて始めて休暇の付与が実現されるのであつて、法が休暇の付与義務者たる使用者に要求しているのは、労働者がその権利として有する年休を享受することを妨げてはならないという消極的な不作為を基本的内容とする義務にすぎないものと解するのが相当であり(前記判決参照)、また就業規則等に所属長の承認を要する旨規定してみても、それは強行法規たる法の定めに反するものとして効力をもちえない。いずれにしても被告の右主張は理由がないものというべきである。

3  被告は、次に原告らの本件各年休の時季指定の効果は、被告の法三九条三項但書に基づく適法な時季変更権の行使により消滅している旨主張するので、以下その主張の当否について判断する。

(一)  思うに、法三九条三項但書にいう「事業の正常な運営を妨げる」かどうかば、当該労働者の所属する事業場を基準として、事業の規模、内容、当該労働者の担当する作業の内容、性質、作業の繁閑、代行者の配置の難易、労働慣行等諸般の事情を考慮して客観的に判断すべきである。

(二)  そこで、これを本件についてみるに、原告らが勤務している此花局電報課の人員、勤務形態が別紙目録日記載のとおりであること、原告神谷は、同課の受付通信係に所属し、同係は、電報の受付、送受信等の業務を行なうものとされていること、原告水原は、同課の配達係に所属し、同係は、受信電報の配達等の業務を行なうものとされ、同係の「交付」は、右業務のうち電報の配達につき配達順路等の指示を担当し、「外配」は、右業務のうち宛名人の住所まで電報を届けることを担当するものであり、同原告は、そのうち「外配」を担当していること、原告らが本件各年休の時季を指定した当日の担務予定は、別紙目録(四)記載のとおりであり、右指定どおり原告らが休暇をとると、原告神谷が所属している受付通信係においては、午前九時から午後五時までの日勤帯で、係員が一名のみとなる時間帯(昭和四四年八月一一日は、午後一時から同三時までと同四時三〇分から同五時まで、同月一八日は、午前九時から午後三時まで)が生じ、原告水原が所属している配達係(「外配」担当)においては、問題の当日の午前一〇時から午後〇時まで「外配」担当の係員が二名(内一名は臨時雇)のみとなること、以上の事実はいずれも当事者間に争いがない。

(三)  右事実と前記一の事実に、〈証拠省略〉及び弁論の全趣旨を総合すれば、

(1) 被告における年休等の有給休暇に関する一切の決裁権限は、所属長に帰属するものとされ、原告らに対しては藤原電報課長が所属長として右の決裁権限を有していること、

(2) 原告ら所属の電報課では、当時、平常時の日勤帯の業務処理にあたり、その業務量に適応する人員として、受付通信係に係員を少なくとも二名、配達係の「外配」担当に係員を少なくとも三名を配置できるよう担務予定が組まれているが、右の人員が確保できないときは、業務処理上事務停滞等の支障が生ずるおそれがあつたこと、

(3) 原告神谷は、昭和四四年八月一一日午前九時二〇分ころ藤原(電報)課長に対し、知人の葬儀に参列するため、前記のとおり同日の午後半日の年休を請求したが、これに対し同課長は、休暇を必要とする事情如何によつては、業務に支障が生ずるおそれがある場合でも、年休を認めなければならない場合があるものと考え、同原告に休暇の事由を明らかにするよう説明を求めたが、同原告がこれに応じなかつたため、業務に支障が生ずるおそれがあることを理由に、右請求を不承認とする旨の意思表示をしたこと、

(4) 同原告は、右同日午後一時ころ藤原課長の承認が得られないまま退社し、そのため前記のとおり受付通信係の係員が一名のみとなる時間帯が生じたが、当時は業務繁忙期ではなく、また藤原課長が必要に応じて随時同係の業務を代行したこともあつて、特に業務上の支障は生じなかつたこと、

(5) 同原告は、同月一八日午前八時四〇分ころ職員の今井忠を通じて藤原課長に対し、妻の入院手続をとるため前記のとおり同日一日の年休を請求したうえ、同日午前九時から予定されていた勤務に就かなかつたが、これに対し藤原課長は、前記と同様の考えから休暇を必要とする事情を質すため、同原告に出社するよう求め、同日午後三時ころ出社した同原告に休暇の事由を明らかにするよう説明を求めたが、同原告がこれに応じなかつたため、前記と同様の理由により右請求を不承認とする旨の意思表示をしたこと、

(6) 同原告は、右同日午後三時ころから就労したものの、同日午前九時から午後三時まで勤務に就かなかつたため、その間前記のとおり受付通信係の係員が一名のみとなつたが、この日も前記と同様業務繁忙期ではなく、また藤原課長が必要に応じて随時同係の業務を代行したこともあつて、特に業務上の支障は生じなかつたこと、

(7) 原告水原は、同月二〇日午前七時三〇分ころ職員の庄司某を通じて藤原課長に対し、私用のため前記のとおり同日の午前中二時間の年休を請求したうえ、同日午前一〇時から予定されていた勤務に就かなかつたが、これに対し藤原課長は、同日午後〇時一〇分ころ出社した同原告に、前記と同様の考えから休暇の事由を明らかにするよう求めたところ、同原告がこれに応じなかつたため、前記と同様の理由により右請求を不承認とする旨の意思表示をしたこと、

(8) 同原告が右のとおり午前中二時間の勤務に就かなかつたため、その間配達係の「外配」担当の係員は、前記のとおり二名のみとなつたが、この日も業務繁忙期でなかつたうえ、当日同係の「交付」担当の係員は全員出勤の予定であつて、人員に余裕があつたところから、「交付」担当の係員一名が「外配」の業務を手伝つたので、特に業務に支障は生じなかつたこと、

(9) 原告らの職場では、これまでも平常時の日勤帯において、受付通信係の係員が二名を欠き、配達係の「外配」担当の係員が三名を欠いたことがしばしばあり、このようなときでも電報課長が本来の管理業務を行なう傍ら係員の業務を代行するなどして、係員に可及的に年休を付与するよう配慮してきたのであり、また担務予定表どおり係員を配置していても、なお業務繁忙等のために業務に停滞が生ずるおそれがあるときは、電報課長が右と同じように受付通信係あるいは配達係の業務を随時手伝つたり、配達係の「交付」担当の係員が「外配」の業務を手伝うなどして、業務上の混乱を未然に防止してきたのであつて、このように電報課長あるいは「交付」担当の係員が、他の係員の業務を代行することは通常行われていたところであつて、特段異とするに足らなかつたこと、以上の事実を認めることができ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

(四)  右認定の事実関係からすれば、原告らの職場では、日勤帯の業務処理にあたつては、受付通信係に少なくとも二名、配達係の「外配」担当に少なくとも三名の係員を配置すれば、業務繁忙期でないかぎり特に業務に支障が生ずるおそれがなかつたことが明らかである。

ところで、原告神谷が年休の時季を指定した同月一一日及び同月一八日の日勤帯には、少なくとも受付通信係の係員が一名配置されていたほか、藤原課長がいつでも同係の業務を代行しうる業務体制にあつたことが明らかであり、また原告水原が年休の時季を指定した同月二〇日の日勤帯には、少なくとも配達係の「外配」担当の係員が二名配置されていたほか、「交付」担当の係員一名がいつでも「外配」の業務を代行しうる業務体制にあつたことが明らかであるが、前認定のとおり必要に応じて随時電報課長あるいは配達係の「交付」担当の係員が、他の係員の業務を代行することが通常行われ、業務繁忙期でない限り、これによつて業務の混乱を防止できていた事実に徴すれば、右のいずれの場合も、日勤帯の業務処理にあたり最低限度必要とされる前記の人員が確保されていたものと認めるのが相当である。

してみれば、原告らの本件各年休の時季指定が業務繁忙期になされたものでないことは前認定のとおりであるから、原告らが右指定どおり休暇をとつても、原告らの各職場における右のような人員配置状況からして格別業務上の支障が生ずるおそれがあつたとは認められず(藤原課長が原告らに休暇の事由を質し、その事由如何によつては休暇を承認しなければならないものと考えていたのも、右と同様の認識にたつていたものと推認される。)、事実、問題の当日にはいずれも前認定のとおり格別業務上の支障が生じていないのであるから、被告が主張するような時季変更権を行使すべき業務の正常な運営が妨げられる客観的な事情は存しなかつたものといわなければならない。

(五)  なお、被告は、管理業務の遂行者たる藤原課長が、前記のように受付通信係の業務を代行しなければならないこと自体業務の正常な運営を阻害するものであり、そのために課長本来の業務にも支障が生じた旨主張するが、電報課長が本来の管理業務を行なう傍ら必要に応じて受付通信係等の業務を代行することは、前認定のとおり随時行なわれていたのであるから、本件において藤原課長が受付通信係の業務を代行しなければならなかつたことが、直ちに業務の正常な運営を阻害するものとはいえず、また、藤原課長が受付通信係の業務を代行したため、本来の管理業務に具体的にどのような支障が生じたのか主張自体明らかでないのみならず、本件の全証拠によつてもそのような支障が生じたことを窺わせるに足りる具体的な事実を何ら認めることができないから、被告の右主張は理由がないというべきである。

また、被告は、就業規則等に、原告ら交替服務による職員の年休請求は、休暇日の前々日までにしなければならないと定められているのに、原告らがこの規定を遵守せず、休暇の直前になつて突然年休の時季を指定したこと、あるいは休暇日の前々日までに年休の時季を指定できなかつた理由を説明しなかつたことが、時季変更権を行使せざるをえなかつた理由のひとつである旨主張しているが、法は、労働者が年休の時季を指定すべき時期について、何らこれを制限すべき規定を置いていないから、いつ年休の時季を指定するかは労働者の自由であると解すべきであり(ただ、使用者が時季変更権を行使する時間的余裕をおいてなされるべきことは、事柄の性質上当然である。)、就業規則等によつて右時期に関する規定を設けても、それは訓示的な意味に止まり、法的な拘束力をもちえず、したがつて原告らが休暇の前々日までに年休の時季を指定しなかつたこと、あるいは指定できなかつた理由を説明しなかつたことを、時季変更権を行使する理由のひとつにすることは許されないものというべきである。

(六)  右にみたとおり、原告らが本件各年休の時季を指定した当日、被告には法三九条三項但書所定の事由が存在しなかつたことが明らかであるから、被告の時季変更権に関する前記主張は、その余の点について判断するまでもなく理由がないものというべく、したがつて原告らの本件各年休は、前記のとおりその時季指定によつて有効に成立しているものというべきである。

三  次に、原告水原主張の本件病休の成否について判断する。

1  思うに、有給休暇としての病休は、被告の就業規則により始めて認められたものであるから、その効力発生要件は、就業規則の規定、及びその解釈、運用に関する労使間の労働協約並びに運用の実態等によつて明らかにされるべきである。

2  別紙目録(二)記載の病休に関する就業規則の各規定、及びこれらの規定の解釈、運用に関する労使間の「了解事項」「記録書」の各内容(以上いずれも争いのない事実)によれば、職員が傷病にかかり就労が困難なときは、医師の診断書を付して所属長の承認を受けることにより、所定の期間病休が与えられるのが原則であるが、病休の期間が二日以内であつて医師の証明書を受けることが困難な場合は、直属上長等の証明をもつて医師の証明書に代えることができることになつている。

原告水原所属の此花局電報課における実際の運用についてみるに、〈証拠省略〉を総合すると、

此花局電報課では、電報課長が期間二日以内の病休請求の場合における事実の証明と、病休請求の承認の権限をも合わせ有していること、

同課では、職員が二日以内の病休の承認を受けようとするときは、本人自らあるいは家族等が電話で電報課長に、電報課長が不在のときは所属の係長に病気で出勤できないから休ませて欲しい旨通知し、これを受けた課長あるいは係長は、電話での応答によつてその病状等を確認し、後日その職員が出勤して来たときに所定の「病気休暇願」なる用紙に必要事項を記入のうえ提出させ、課長が直接右の確認をしたときはそのまま該請求を承認し、係長が右の確認したときは、係長の証明により課長がこれを承認し、病休として処理するのが通例であり、時には右以外の方法で病状を確認することもあつたが、必ずしも診断書その他の証明書を徴していなかつたこと、

以上の事実を認めることができ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

3  原告水原が昭和四三年四月五日、同日一日の病休を請求したことは当事者間に争いがなく、この事実に〈証拠省略〉を総合すれば、

同原告は、右同日朝起床したところ風邪気味で微熱があり、頭痛もあつたので、同日予定されていた午後〇時から同八時までの勤務に就くことは無理であると判断し、同日一日の病休を受けるべく、同日午前九時三〇分ころ此花局電報課に電話したころ、藤原課長が不在であつたため、木和田配達係長に対し、右症状を具体的に説明したうえ、同日一日の病休を請求し、その日は一日常備薬を服用するなどして自宅で静養した。

木和田係長は、右同日藤原課長に同原告から右のとおり病休の請求がなされたことを報告し、同月九日同原告から所定の用紙である「病気休暇願」に必要事項を記入させてこれを提出させ、同用紙の処理者印欄に認印をし、服務予定表及び出勤簿にも請求にかかる右当日を病休として処理をした。

ところが、後日になつて藤原課長は、同原告に対し当日の症状について詳しく説明を求めることなく、医師の証明書あるいは売薬を購入したことを証明する領収書等を提出するよう命じたところ、同原告は従前からそのような資料を求められたことがなかつたとしてこれに応じなかつたところ、藤原課長は、同原告の右病休の請求を不承認とし、欠勤扱いにした。

事実を認めることができ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

4  以上認定の各事実関係からすれば、原告水原が昭和四三年四月五日同日一日の病休の付与を求めた行為、その方法は、従前の病休請求の運用の実態と何ら変るものでなく同原告は、右同日頭痛等のために就労困難であつたものと認めるのが相当であり、また木和田係長が、同日不在であつた藤原課長に代わり同原告から病状等について具体的な説明を受け、その結果前認定のとおり「病気休暇願」の処理者印欄に認印し、かつ服務予定表及び出勤簿に病休として処理したことからすれば、同係長としても同原告が前記病気のため就労困難であつたことを認めていたものと推認でき、かつ、同係長の右処理は、前認定の病休請求の運用の実態からすれば、「記録書」にいう直属上長の証明に準じた効力を有するものと認めるのが相当である。

そして本件のような突然の発病による一、二日間の欠勤のような場合、発病による就労困難な状態が証明されたならば、病休を付与することとしていたことからして、このような場合における所属長の承認なるものは、その事実関係を確認すること以上に出るものではなく、その承認がないから病休として成立しないとすることは相当でない。原告水原は、現に発病により就労困難の状態にあつたのであり、所属の電報課において通例行われていたとおりの病休の届出をなし、かつ、上司の木和田係長も必要な証明をなしたのであるから、藤原課長の承認の有無にかかわらず、病休として成立しているものというべきである。

四  以上説示した次第であつてみれば、原告ら主張の本件各有給休暇は、いずれも有効に成立しているものというべきであるから、被告がこれを欠勤したものとして扱い、原告らが本来受給すべき賃金から右欠勤分に相当する金員(この金額については、前記のとおり当事者間に争いがない。)を控除することは許されず、この金員はいわゆる休暇手当として被告から原告らに支払われるべきものである。

したがつて、被告は、原告神谷に対し、休暇(年休)手当として、賃金から控除した金員である別紙目録(一)の(ホ)欄記載の三、一七七円及びこれに対する弁済期の経過後である昭和四五年三月一一日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金並びに同原告の請求にかかる法一一四条所定の付加金として、未払の右休暇(年休)手当金と同一額の三、一七七円を支払うべき義務があり、原告水原に対し、休暇手当金として、賃金から控除した金員である同目録(ホ)欄記載の二三三円(年休手当金)と一、二六〇円(病休手当金)の合計一、四九三円及びこれに対する前同様の遅延損害金並びに同原告の請求にかかる右と同様の付加金として、未払の右年休手当金と同一額の二三三円を支払うべき義務があるものというべきである。

なお、原告らは、右付加金についても右と同様の遅延損害金の支払いを求めているが、法一一四条に基づき使用者が支払うべき付加金の支払義務は、裁判所がその支払を命ずることによつて始めて発生し、これに対する遅延損害金の起算日は該判決確定の日の翌日と解するのが相当であり、同日以前においては付加金支払義務の履行遅滞は生じていないものと解すべきであるから、原告らの本訴請求のうち、右遅延損害金の支払いを求める部分は理由がないというべきである。

五  よつて、原告らの本訴請求は、右認定の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用し、なお、被告の担保を条件とする仮執行免脱宣言の申立は本件においては相当でないからこれを却下して、主文のとおり判決する。

(裁判官 石井玄 木村修治 窪田正彦)

目録(一)〈省略〉

目録(二)

(1) 就業規則

第三五条 休暇には次の種類がある。

(一) 有給休暇

ア 年次休暇

イ 特別休暇

ウ 年末年始の休暇

エ 病気休暇

〈以下省略〉

第四二条 職員が次の各号の一に該当する場合は、当該各号に定めるところによりその者に病気休暇が与えられる。

(一) 業務上負傷し、または疾病にかかつたとき 医師の証明に基づき療養に必要な期間

(二) 結核性疾患にかかつたとき(前号に該当する場合を除く)医師の証明に基づき別に定める期間を限度として療養に必要な期間

(三) その他負傷し、または疾病にかかつたとき 医師の証明に基づき別に定める期間を限度として療養に必要な期間

〈以下省略〉

第四五条 職員は、第三五条の休暇(年末年始の休暇を除く)を受けようとするときは、事前に(交替服務による職員に係る年次休暇については、前々日までに)所属長の承認を受けなければならない。

〈以下省略〉

(2) 年次有給休暇に関する協約

第六条 休暇は本人から請求があつた場合に付与するものとする。ただし、請求の時季に付与できない場合は、他の時季に振り替えることができる。

(3) 年次有給休暇に関する協約の覚書

四 交替服務者が休暇を請求する場合は、原則として、前々日の勤務終了時までに請求するものとする。

(4) 賃金に関する協約

第三六条 職員が次の各号のいずれかに該当する場合には、それぞれの定めるところにしたがい昇給額を減額する。

一 〈省略〉

二 無断欠勤がある職員の定期昇給

前年度の勤務期間中に無断欠勤がある職員の定期昇給は、その情状により四分の一ないし四分の二に相当する額だけ昇給額を減じて行なう。

(覚書)

1 協約第三六条第二号にいう「無断欠勤」とは、所属長の承認を受けない欠勤(欠務を含む。)、遅刻および早退をいうものとする。

〈以下省略〉

(5) 病気休暇の付与に関する了解事項

職員が病気休暇を受けようとするときは、医師の証明書を付して所属長の承認を受けなければならない。ただし、病気休暇の期間が二日以内であつて医師の証明書を受けることが困難な場合は、直属上長、衛生管理者または寮長等の証明をもつて医師の証明書にかえることができる。

(6) 病気休暇の付与に関する了解事項の運用についての記録書病気休暇の付与に関する了解事項(三五中了第一四号)のただし書の運用については、次のように行なうことに意見の一致をみた。

〈組〉 医師の証明を受けることが困難な場合の解釈をめぐつて紛争が起きているが、この問題については、これまで検討してきたように困難な場合の例を具体的に示すことは簡単でないと考えるので、公社はこの際二日以内の病休については、医師の証明書を必要とせず届出があれば付与すると明確に表現すべきである。

〈公〉 公社としては、組合側が主張するような取り扱いとするためには、相互の信頼と職員の良識が前提にならなければならないので、この精神で双方が指導するものであれば、二日以内の病休については、直属上長、衛生管理者または寮長等の証明により、本人が傷病のため就業できないものであることを所属長が認定できるときは、画一的に医師の証明書を求めることはしない。ただし、一般的ではないが、特に傷病の事実を確認する必要があると認められる場合は、医師の証明書の提示を求めることを考えるのもやむを得ないと思う。

〈組〉 了解する。

以上

目録(三)

電報課の人員

課長

(1名)

受付通信係

係長

(1名)

主任

(1名)

係員

(7名)

配達係

係長

(1名)

主任

(4名)

係員

(12名)

電報課の勤務型態

受付・通信

固定日勤3名

係長 1名

課内庶務 1名

通信 1名

6輪番 6名

通信 6名

配達

固定日勤1名

係長 1名

4輪番 4名

交付 4名

6輪番(2組)12名

外配 12名

以上

目録(四)

(1) 昭和四四年八月一一日の受付通信係の担務予定表

予定

実行

備考

前  後

9.00~5.00

組合休暇

係長

前  後

9.00~5.00

前  後

9.00~5.00

課内庶務

前  後

8.30~4.30

前  後

8.30~4.30

受付通信

前  後

9.00~5.00

年休

同上

前  後

9.00~5.00

前  後

9.00~1.00

同上

(神谷)

後  後

3.00~11.00

後  後

3.00~11.00

同上

宿

(後 後)

5.00~12.00

宿

(後 後)

5.00~12.00

同上

(前 前)

0.00~9.00

(前 前)

0.00~9.00

同上

週休

週休

同上

9名

(2) 昭和四四年八月一八日の受付通信係の担務予定表

予定

実行

備考

前  後

9.00~5.00

前  後

9.00~5.00

係長

前  後

9.00~5.00

前  後

9.00~1.00

(半 休)

課内庶務

前  後

8.30~4.30

前  後

8.30~4.30

受付通信

前  後

9.00~5.00

後  後

3.00~5.00

同上

(神谷)

後  後

3.00~11.00

後  後

3.00~11.00

同上

宿

宿

同上

同上

週休

週休

同上

週休

週休

同上

9人

(3) 昭和四四年八月二〇日配達係の担務予定表

予定

実行

備考

後  後

0.00~8.00

後  後

0.00~8.00

係長

前  後

9.00~3.15

前  後

8.00~3.15

交付

前  後

10.00~6.00

前  後

10.00~6.00

同上

後  後

3.00~11.00

後  後

3.00~11.00

同上

前  後

8.00~4.00

前  後

8.00~4.00

配達

前  後

10.00~6.00

後  後

0.00~6.00

同上

(水原)

後  後

0.00~8.00

後  後

0.00~8.00

同上

前  後

9.00~5.00

後  後

3.00~11.00

同上

(勤務変更)

宿

宿

(2名)

(2名)

前  後

8.00~4.00

前  後

8.00~4.00

配達

(臨時雇)

後  後

3.00~11.00

年休

(1名)

(注) この他に週休二名(内一名は臨時雇)、病休二名

以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
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